とある掌編

御わたピは遅刻を微塵も恐れてはいなかった。
要は、欠席がいけないのであって、遅刻がよろしくないわけではいのだ。教室にたどり着いて、席につき、先生の話をウンウンうなづいて聞く。なるほど他の学生と何ら変わりはないではないか。御わたピは遅刻を微塵も恐れてはいなかった。彼女は悠々と、且つ颯爽と授業が始まって久しい教室に現れ、前でも後ろでもない、どこでもない席に陣取ると、その明晰な頭脳でスッと先生の話に追い付き、他の学生の群れに何の違和感もなく溶けこんでいく。これが、彼女の日常である。
これは真理であるから筆者は何度だって繰り返すのであるが、欠席がいけないのであって、遅刻がいけないわけではないのだ。皆さん是非とも覚えておいて頂きたい。
そして同時に、如何に友達が少なかろうが、それも微塵も恐るるに足りない。

御わたピが遅刻をやめられない大きな理由として、彼女の大腸が挙げられる。
大学にいこうとすると、まず大腸が緩やかな自己主張を始める。「そんなのやめとこうよ~おうちにいようよ~」しかし御わたピは非常に意思の強い人間であるから、数ある臓器のうちのひとつの意見など気にしない。御わたピの身体は完全なる民主主義を採っており、その行動は常に多数決で決められる。数多くのその他の臓器が「大学に行きたくない」と言い出さない限り、御わたピは大腸ひとつの意見を無視し、その強い意志で以て大学へと向かおうとする。
しかし、いつも通り大学へと向かおうとする意思の発現、ないしそれが叶って無事大学に着いた際、大腸の激しい自己主張――反撃――は始まるのである。
これが、手に負えない。あり得ない力でのデトックスである。御わたピはほとんど抗えない力でトイレへと連れ込まれる。大学のトイレ、家のトイレ、場所はどうであれ大腸に監禁されてしまう。大腸がすべて悪い。嗚呼、神様。今日もお腹が痛いです。
大腸の反撃が収まるまで、教室は遥か遠い。これがひどい現実であり、受け入れざるをえない悲劇なのである。お陰で彼女の大腸はたいてい非常に綺麗であり、これは間接的に大学のお陰と言ってよい。